賃貸物件を借りる際、知り合いに連帯保証人を頼むことが意外と負担だ。親族だとしても少し気が重い。頼まれる方もいい気持ちでないことがわかるからだ。
だがそれも昔、最近は「連帯保証人不要」の物件が多くなっていると感じないだろうか。
その代わりに聞くようになったのが、「保証会社」だ。どうもこの保証会社が連帯保証人の代わりになってくれるらしい。
今回紹介する『イントラスト』もその1社。不動産入居時の家賃債務保証に始まり、医療費用・介護費用・養育費用の保証まで行う、総合保証ビジネスの強みに迫りたい。
事業:家賃保証から医療・介護・養育費まであらゆる保証を提供!
イントラストは家賃保証を筆頭に、医療・介護・養育費保証を提供する、「総合保証サービス会社」だ。
家賃債務保証
中でもイントラストの主事業となるのが、家賃債務保証。
賃貸契約したことのある方なら馴染みがあるのではないか?
賃貸契約を行う際、昔は連帯保証人をつけるのが普通だったが、最近は「保証会社」に連帯保証をしてもらうのが一般的だ。イントラストはこの「保証会社」の内の1社である。
イントラストが連帯保証を引き受けることで、入居者は連帯保証人を探す必要もなく、不動産管理会社の方からしても、万が一支払の滞納があった場合でもイントラストが家賃を肩代わりしてくるので安心というメリットがある。
さらに、滞納時の督促業務を管理会社ではなくイントラストが行うことになるので、業務負担の軽減というおまけまでついてくる。
入居者にもメリットはあるし、管理会社からしたら便利この上ない仕組みだからこそ、最近はもっぱら連帯保証人ではなく保証会社を使うことが一般的になっているのだ。
医療費用・介護費用保証
患者・入居者が万が一費用の支払を滞納した場合に、イントラストが連帯して保証するのが、医療費用保証と介護費用保証だ。
基本的に仕組みは家賃債務保証と同じだが、保証する対象は家賃ではなく「医療費用」「介護費用」。
家賃の保証と比べてニーズがなさそうなサービスに思えるが、そうでもない。
実は2018年から一定規模以上の医療法人に対する監査が強化されて、未収金・債権回収管理がチェックされるようになっており、病院は今まで以上に滞納が発生しないように意識しなくてはいけない事情があるからだ。
その点、リスク削減・業務負担軽減のみならず、ガバナンスの強化という観点で導入メリットが大きいといえる。
養育費保証
養育費保証は、イントラストが養育費の未払いを保証するサービスだ。
仮に養育費の未払いが発生しても、イントラストが代わりに立替支払をしてくれて安心なのに加えて、督促はイントラストが行うので元パートナーへの連絡も不要だ。
自治体とも連携を取り、初回保証料の補助をしてもらえるような仕組みを取っているのも特徴だ。
コンサル&オペレーションサービス
これまで紹介してきた事業は全て「イントラストが滞納リスクを負う」というモデルだ。つまり、滞納が発生したときには、イントラストが代わりに支払わなければいけない。
だが、大手の不動産管理会社などでは、自社で連帯保証人としての滞納リスクを負った上で、督促等の実務だけアウトソースしたいというニーズもある。
このようなニーズに対応するのがイントラストの「コンサル&オペレーションサービス」だ。
滞納があってもイントラストが代わりに支払を行うことはないが、実際の督促業務は代行して行うようなイメージだ。
なお、具体的にアウトソースする業務範囲は企業ごとに柔軟に対応できるようになっている。
強み:ストック型ビジネスの安定性と新分野の成長
家賃保証の分野はCasaやあんしん保証といった他の上場企業が存在し、未上場にも競合は多い。
その中でイントラストは、安定的かつ収益性の高い家賃保証ビジネスを中核に据えながらも、競合に先駆けて新分野の保証商品をカバーするようにしているのが特徴だ。「総合保証サービス会社」の立ち位置を築き、競合との差別化を図ろうとしている。
ストック型ビジネスの家賃保証
家賃保証は、保証契約時にイントラストが一定の保証料を受け取るビジネスモデルになっている。
賃貸契約をする際に保証会社とも契約を行った経験があると思うが、その際に保証料を別途支払っていることは記憶にあるだろうか?あのお金がまさにそれだ。
一定期間経過すると更新料も発生するため、イントラストが提携している管理会社の物件に入居者がいる限り継続的にお金が入ってくる安定的なビジネスモデルだ。
入居者と管理会社との賃貸契約が終了すると保証料はなくなってしまうが、新たな入居者が見つかればその際にまた保証料が発生する。
提携する管理会社とその管理戸数が増加すれば増加するほどに、売上が積み上がる安定性の高いストックビジネスと言える。
しかも不況にも強い。
なぜかというと、不況になったとしても人には住む家が必要だからだ。
なお、イントラストが滞納リスクを負わない「コンサル&オペレーションサービス」についても、基本的には考え方は一緒だ。
この場合は保証料ではなく、実務を行う上での業務委託料を継続的に受け取ることになり、提携の管理会社とその管理戸数が増加すればするほどに売上は積み上がる。
競合と比べて高い利益率
また、イントラストは上場している競合と比べても高い利益率をほこる。
Casa・あんしん保証共に決して利益率は低くないが、イントラストのそれは安定的に20%を上回る。最新の2021年3月期決算は27.43%となっており、いかに収益性が高いかがわかるだろう。
この要因として、収益性の高い大手管理会社との取引を中心としていることが考えられる。イントラストは大和グループとの関係が深く、売上の多くを大和グループ関係が占めているのだ。
ただし、裏を返せば大和グループとの取引関係に変化が生じれば、イントラストの業績に大きなインパクトがあることも意味しており、リスク要因としても注意すべきである。
新分野への挑戦
個人的に注目したいのがイントラストの新分野への挑戦だ。
イントラストは医療・介護・養育費の保証という新分野にも手を広げており、医療・介護領域においてはすでに一定の成功を収めている。
特に医療分野においては、エランのような入院レンタルサービスと提携することで、拡販に成功している。
医療機関と取引関係のある企業と提携をすることで、効率的に医療機関への保証サービス導入を進めることができているのだ。
保証ビジネスは継続的な取引を前提としたサービスであり、いかに早く企業への導入を増やせるかという「早い物勝ち」のような面があるため、スピーディーにシェアを確保してしまえば、競合が後から入り込む旨味もなくなる。
一方で、その新分野が本当にビジネスとして旨味があるかどうか、という点は一つのリスクとして考えておかないといけない。例えば養育費保証については、家賃保証と比べると滞納リスクははるかに高いと考えられ、それに応じてイントラストの管理コストも高くなると考えられる。
業績:新分野の売上が急成長中
イントラストの売上は年々安定的に増えており、経常利益率も高い水準だ。
一方で事業別に見ると、保証事業が落ち込んでいた時期がある。ただし、ここ最近は再度成長フェーズに入っている。
保証事業が一時期落ち込んでいた理由は、大手取引先が滞納リスクを自社で受ける方針に切替をしたことが要因だと考えられる。
ただし、その際に実務は引き続きイントラストに依頼していることもあり、ソリューション事業の方は伸びている。なお、ソリューション事業はコンサル&オペレーションサービス、つまりイントラストが実務だけを行い「滞納リスクを負わない」サービス等を指している。
そして、近年保証事業が再度成長している理由として挙げられるのが、医療・介護領域の伸張だ。2018年3月期には保証事業の1%にも満たなかった売上が、2021年3月期には16%を超えるほどに急成長している。
市場:家賃保証はもう成長しないか?対して期待が大きい医療分野
家賃債務保証会社の利用率は2020年4〜9月において、全エリアで95%以上とすでに市場成長余地がほとんどない状態と考えられる(出典:日本賃貸住宅管理協会「日管協短観」)。
しかも少子化により賃貸契約の絶対数が下がっていけば、その分だけ家賃保証の市場も縮小していくだろう。
対して医療分野に目を向けると、2018年の日本の病床数は1,641,407床(出典:日本医師会「病床数の国際比較」)。イントラストの入院セット医療保証を導入する病床数は2021年3月期で33,099床でまだ全体の2%程度しか占めていないことから、期待できるのではないか?
株価:上下動激しく、最高で上場来3倍
イントラストの株価だが、上場来で最高3倍程度の上昇を果たしているものの、上下動は激しく、きれいな右肩上がりとはなっていない。
しかし、2016年12月から2021年5月までのパフォーマンスは日経・TOPIXは上回っている。
今後:家賃保証が利益を上げているうちに、次なる軸を
すでに利用率が95%を超えている以上は、家賃保証の市場成長は望めないと感じる。その点、イントラストが直面する市場環境は決して明るくない。
その点、次の成長ドライバーとして期待したいのは医療費用保証。毎年大きい成長を続けており、今後どれだけシェアを確保していけるかがポイントとなる。
だが医療費用保証についても気になる点がある。最新の2021年3月期決算を見ると、四半期単位での成長が止まっているのだ。
医療費用保証も家賃保証と同様にストック性のあるビジネスモデルなので、提携医療機関の数が増えればそれだけ四半期単位で売上が増えるはずなのだが、それが停滞している。イントラストの資料を読むとコロナの影響で営業活動が制限されたと書かれているので、その内容の通りであれば大丈夫だと思うが、少し懸念である。
今後どうなるか、注目していきたい。
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