倉庫に保管している商品を出荷して、トラックに積んでお客様のもとに届ける。物流と聞いてイメージするのは、こんなもんだろう。
だが、物流は意外と奥深い。
例えば、「パレット」という物流業界で使われる用具を知っているだろうか?荷物を運んでいるフォークリフトを見てみよう。フォークリフトの爪が刺さっている、あの木製の台。あれがパレットだ。
実はこのパレット、物流効率を大きく上げることに貢献する、物流業界を陰から支える縁の下の力持ち。パレットを使うことで、大量の荷物をフォークリフトで一気に移動できるようになるからだ。
今回ご紹介する『ユーピーアール』は、パレットのレンタル・販売事業を運営する企業。そのビジネスの強みに迫りたい。
事業:パレット事業を中心に、アシストスーツ・IoTで次世代物流も目指す
ユーピーアールの事業は大別すると、「パレット事業」と「次世代対応型事業」に分けられる。
地味な「パレット事業」に対して、アシストスーツ・IoTを活用する対照的な「次世代対応型事業」だが、どちらの事業も物流の効率化を目指している点は一緒だ。
パレット事業:パレットのレンタル・販売
ユーピーアールの売上の約90%を占める主力事業が「パレット事業」。
事業内容は至ってシンプル。企業に対してパレットの「レンタル」と「販売」を行う事業だ。特に「レンタル」分野に力を入れており、「パレット事業」の売上のうち75%が「レンタル」により構成されている。
ユーピーアールのレンタルパレットを利用することで、企業は「好きなときに好きな分だけ」のパレットをレンタルすることができ、さらに使い終わったら全国にあるユーピーアールが運営する「デポ」に返却することが可能となる。
企業がパレットを自社で保有するとなると、配送先でパレットを使い終わった後に回収する必要があるなど、管理が面倒なのだが、ユーピーアールのレンタルパレットを利用すれば片道でパレットを利用することができ便利だ。
さらにパレットをレンタルすれば、パレットを他社と共同利用・共同回収することも可能となる。
例えば、商品を他社のトラックに積むシチュエーションを考えてみよう。もしパレットを自社で「保有」していたとなると、自社のパレットを他社のトラックに持っていかれるわけにはいかないので、いちいち商品を積み替える必要がある。
だが、パレットを「レンタル」で他社と共同利用していたら話は別だ。パレットの回収が不要となるので、パレットに商品を載せたまま、他社のトラックに積むことが可能となる。
このように、レンタルパレットは物流効率を格段に改善するサービスであることがわかるだろう。
次世代対応型事業:アシストスーツ・IoT
その他、ユーピーアールはテクノロジーを活用して物流効率化を実現するべく、次世代対応型事業を展開している。
例えば、荷物の運搬を効率化すべく、アシストスーツの販売を行う。
その他にも貨物の追跡システム等、積極的にテクノロジーを活用した新規事業展開を目指している。
強み:先行者としての優位性と、テクノロジーを活用した新事業への取組
レンタルパレット事業は、「パレットを貸し出す」というシンプルな事業内容のため、参入障壁も低そうだ。
しかし、意外とレンタルパレットの世界は奥が深い。
ユーピーアールは単純そうで奥が深いこのレンタルパレット事業でどのように競合優位性を築いているのだろうか?
450万枚を超えるパレットを保有
パレットを貸し出すためには、当然パレットを一定数保有していないといけない。
その点、ユーピーアールは2021年8月期末時点で450万を超えるパレットを保有している。
レンタルパレット事業は、先にパレットの購入を行う先行投資が必要なビジネスモデルであり、後発でユーピーアールと同水準のパレット数に追いつくには思い切った投資をしていく必要がある。
つまり、多くのパレットを保有しているその事実がすでに競合に対する優位性となっているのだ。
全国に設置してある「デポ」
レンタルパレットを運営する上で、パレットを回収する拠点を設置することは必要不可欠だ。
その点ユーピーアールはすでに全国にパレット回収拠点である「デポ」を設置してあり、全国の顧客に対してサービス提供ができるという強みを持っている。
回収拠点網の構築についても、一朝一夕で作り上げられるものではないので、レンタルパレット事業への参入障壁になる。
2,500社を超える取引先
レンタルパレット事業は、パレットを貸し出す先がないと成り立たないビジネスだ。
どんなにパレットを多く保有していても、パレットを貸し出す先がないと、パレット購入にかかった先行投資費用を回収できないからだ。
その点ユーピーアールは2,500社を超える企業と取引をしており、保有しているパレット数を常に稼働させられる状態を作り上げている。
レンタルパレット事業においては、パレットの稼働率が非常に大事で、稼働率が高すぎても低すぎてもだめだ。そして、将来のパレットの稼働率を左右するのは、取引社数とその取引先におけるパレット需要である。
安定したパレット稼働を作り上げるうえでは、多くの企業と取引関係にあることは重要であり、その点2,500社を超える企業と取引関係を築けている点はユーピーアールの強みと言えるだろう。
多種多様なパレットを保有
パレットは本当に奥が深い。例えばパレットの規格を考えてみよう。
パレットの規格(サイズ等)が統一されていると、パレットを他社と共同で利用する場合に連携が取りやすくなる等のメリットがある。
一方で、積載する商品によって最適なパレットのサイズは一般的に異なる。より多くの商品を積載するには、その商品に最適化されたパレットがベストだ。
ユーピーアールの競合である日本パレットレンタルは、標準化されたパレットである11型に特化した仕組みを作り上げているのだが、ユーピーアールは多種多様なパレットを保有することで、取り扱う商品ごとに最適なパレットを提供できるようにしている。
世界的な潮流としては、パレットの標準化が進んでいるのだが、日本においてはパレットを商品ごとに最適化するニーズがまだ強く、その点に対応していることがユーピーアールの差別化ポイントであることは間違いない。
テクノロジーを活用した新規事業
まだ全社売上における割合は低いが、テクノロジーを活用したソリューションを提供しようとするユーピーアールの姿勢も高く評価されるべきだと感じる。
新規事業は全体的に物流効率化に関わるものであり、パレット事業とのシナジー効果も見込めるものだ。
パレットの位置などをクラウドで確認できる、「スマートパレット」のように、パレットに対して直接テクノロジーを付与しているような事業もすでに行っている。
レンタルパレットというシンプルな事業を中心としているからこそ、テクノロジーを活用してサービスレベルを上げ、付加価値をつけていくことが今後重要となるはず。
その点、現在のユーピーアールの新規事業は、同社の将来の強みになっていく可能性が高いと考えている。
業績:安定的な成長を続ける
ユーピーアールはここ数年10%ほどの成長を続けており、安定的に業績が推移している。リーマンショック時においても大きなダメージを受けることはなく、派手でなくとも着実に業績を伸ばし続けているようだ。
売上の大半はパレット事業によりもたらされており、その割合は約90%ほどを占める。
なお、パレット事業の中でレンタルパレットが75%の売上を占めている。
市場:日本でのレンタルパレット市場はまだまだ小さい
日本には約5億枚のパレットが流通しているとされているが、実はほとんどが企業が自社で保有するパレットだ。
そして、レンタルパレットについては2,200万枚、なんと約4%ほどしか利用されていないのだ(出典:株主手帳)。
荷物を出発地から到着地まで同一パレットに載せて輸送する「一貫パレチゼーション」は、物流効率の観点からも各社取り組む意識が強く、その「一貫パレチゼーション」を実現するために大きな役割を担うレンタルパレットの需要は今後も増えていく可能性は高いと期待できる。
株価:1年で株価は6倍!!
ユーピーアールの株価だが、2019年6月に760円ほどだったのが、1年後には4580円と6倍ほどの急上昇を遂げている。
順調な業績に、もともと低水準だったPERの水準訂正により大きく伸びた形だ。
当然同時期のパフォーマンスは日経・TOPIXを大きく上回る結果となっている。
今後:レンタルパレット単体だけでも成長期待!新規事業をうまく育成できるか?
個人的にユーピーアールの今後については、しばらくは明るいと感じている。
パレットについて知れば知るほど、レンタルパレットは非常に有用な仕組みであると感じるし、未だほとんどのパレットが企業の自社保有で占められていることを考えると、市場の成長性に大きな期待ができる。
自社保有のレンタルパレットを減価償却していくことを考えると、恐らくレンタルパレットへ急激にシフトするというよりは、企業は徐々にレンタルパレットへシフトしていくと想定される。
その間ユーピーアールは、無理のない範囲でパレットへの投資を進めてゆっくりと投資回収をしていき、着実な成長を享受できるのではないかと考えている。
そしてキャッシュカウであるレンタルパレット事業が順調に成長を続けている間に、新規事業で第二の軸を作り上げていくことが重要だろう。
だが、レンタルパレット単体だけでも成長期待はあると考えており、ユーピーアールの成長はしばらく続いていくと思う。
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