あなたが最後に雑誌を購入したのはいつですか?
以前より出版不況が叫ばれているが、事実として国内の書店は急速に数を減らしている。そして、当然それに応じて雑誌や漫画といった紙の出版物の市場規模は年々縮小している。
そのような状況の中でも漫画は電子コミックスという形で息を吹き返しており、実際に最近は通勤中にスマホで漫画を読んでいる人の姿をよく見かける。
一方で雑誌はどうだろうか。
雑誌業界も当然の如く出版不況をダイレクトに受けており、著しく市場規模を縮小させている。しかも漫画と比べて電子化も進んでおらず、好材料が見当たらない危機的な状況と言ってもいいだろう。
しかし、縮小する業界の中で奮闘し着実に業績を伸ばしている企業がある。それが『富士山マガジンサービス』だ。
富士山マガジンサービスが不況の雑誌業界でも成長できているキーワードは「定期購読」と「電子雑誌」。その秘密に迫りたい。
事業:「定期購読」による継続顧客の確保とまだまだ未成熟の「電子雑誌」で成長
富士山マガジンサービスの主な事業は大きく分けると以下の2つに分けられる。
雑誌定期購読マーケットプレイス「Fujisan.co.jp」の運営
電子雑誌の制作・販売・取次
雑誌定期購読マーケットプレイス「Fujisan.co.jp」
雑誌を定期購読すれば、割引が適用されてお得に買えることは知っていますか?
「Fujisan.co.jp」は雑誌の定期購読に特化したマーケットプレイスで、2021年2月時点で約10,000誌の雑誌の定期購読を申し込むことができるようになっている。
定期購読はユーザーにとってはお得に雑誌を購入できるというメリットがある一方で、出版社にとっても継続収入を確保できるというメリットがある。Fujisan.co.jpでの継続率は70%超とされており、低迷する雑誌業界にとっては重要な収入源となる。
対象は個人だけでなく、待合室を持つ法人もターゲットとなる。病院の待合室や美容室に置かれている雑誌がイメージしやすいだろう。
衰退していくことが目に見えている雑誌業界は今後コアなファンを着実に囲い込むことが生命線になると考えられ、その点で定期購読獲得は各出版社にとって重要な戦略として位置づけられよう。
そのことを証明するように富士山マガジンサービスは縮小する雑誌業界の中で定期購読者を着実に増やして業績を伸ばすことに成功をしている。
電子雑誌の制作・販売・取次
「Fujisan.co.jp」が富士山マガジンサービスのキャッシュカウとなる事業だが、第二の金のなる木として期待されているのが電子雑誌事業である。
まだ未成熟の電子雑誌市場だが、近年「雑誌の読み放題」サービスを目にすることが多くなったことに気づかないだろうか。あるサービスの会員となったときに、特典として「雑誌の読み放題」がついているようなケースがイメージしやすいだろう。
実はこの「雑誌の読み放題」サービスを裏側で提供しているのが富士山マガジンサービスなのだ。
富士山マガジンサービスは雑誌を電子化した上で、「雑誌の読み放題」等、電子雑誌を提供したい企業・サービスに対して電子雑誌を取次する役目を果たしているのだ。
業績:売上は着実に成長するも、収益性には課題あり
富士山マガジンサービスの業績だが、売上は着実に成長している一方で利益については伸び悩んでいる。
特に2018年からの悪化が顕著であり、10%を超えていた営業利益率が6~7%台に落ち込んでしまっている。
原因の一つとして挙げられるのが電子雑誌への投資だ。電子雑誌事業は先行投資フェーズにあり、現状ではまだ赤字が続いている。
もうひとつ考えられるのは富士山マガジンサービスの定期購読に申し込んでいるユーザーのうち、課金ユーザーの割合が減っていることだ。
「Fujisan.co.jp」への登録は広告出稿等で獲得していると思われるが、課金ユーザー率が低下しているということは、せっかく広告で獲得したユーザーが「お金を落とさない=売上に直結しない」ことを意味する。
売上に直結しないユーザーを獲得するのに広告費が嵩んでしまっては販管費の割合が高まり、当然営業利益率は悪化する。
市場規模:縮小する雑誌市場、伸び悩む電子雑誌市場
実感できるだろうが、雑誌の市場規模は年々縮小している。2015年には7,800億円の市場だったのが2020年には5,576億円にまで低下しており、たった5年間で実に30%も市場が消滅してしまっている。
なお富士山マガジンサービスの2020年度の取扱高は111億円なので、雑誌市場全体における市場シェアは2%に満たないことがわかる。
一方でインターネット上でのマーケットプレイスを運営する富士山マガジンサービスにとって光明なのは、インターネット経由での出版物の販売額が増加傾向にあることだ。
2019年度のインターネット経由の出版物販売額は2,188億円であり、同年の富士山マガジンサービスの取扱高は105億円なので約5%程度の市場シェアを占めていると考えられる。
しかし電子雑誌の市場規模に目を向けると、またしてもネガティブな材料が出てきてしまう。
電子書籍の市場は伸びているように思えるだろうし、実際に電子コミックスを中心に全体としては成長しているのだが、電子「雑誌」に限定するとむしろ2018・2019年は2年連続で市場規模は縮小している。
市場規模も電子書籍の10分の1以下に留まり、決して大きい市場ではない。このまま成長せずに横ばいを続けるのか否かが富士山マガジンサービスの未来にも直結してくるだろう。
株価推移:続く下降トレンド
さて富士山マガジンサービスの株価についてだが、上場来の下降トレンドが続く。
日経・TOPIXをアンダーパフォーム。
先行きが暗い雑誌業界を主戦場としており、しかも利益がここ数年で悪化が続いていることが要因か。
今後の予想:電子雑誌の成長に期待
今のところ成長が続いている富士山マガジンサービスだが、やはり紙の出版物の未来は暗く、雑誌の市場規模縮小はまだ続くと個人的には思う。
そこで期待したいのが電子雑誌の成長だが、電子コミックスと比べて市場が伸び悩んでいる。それでも紙の出版物と比べれば未来はあるだろうし、自分自身も雑誌の読み放題サービスを使ったことがあるが、普段読まない雑誌も読めてサービスとしては良いと感じている。
今後の電子雑誌市場を富士山マガジンサービスが牽引していくことを期待したい。
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