個人・企業に関わらず、事業を行うにあたり発生するバックオフィス業務は面倒なものだ。
毎日の記帳、従業員の労務管理、確定申告など、対応しなければいけない業務は膨大。しかも、個人事業主や中小企業だと、こういった専門的な知識が必要とされる業務に対応できる人材は社内にいないことも多い。
『エフアンドエム』はこういった個人事業主・中小企業に対して、バックオフィス支援のサービスを幅広く提供する企業だ。今回は、そのビジネスの強みに迫りたい。
事業:記帳代行からクラウド提供まで、バックオフィス業務を幅広くサポート!
エフアンドエムは主に個人事業主・中小企業に対して、記帳代行や人事労務管理クラウドの提供といった方法でバックオフィス業務を支援している。
その提供するサービスは数多いが、主たるサービスを一部紹介したい。
会計サービスの「CalQ」
エフアンドエムの事業で最も売上が大きいのが、個人事業主向けの会計サービス「CalQ」だ。
「CalQ」は、利用者が領収書を郵送するだけで、必要な記帳・確定申告といった会計処理を全てエフアンドエムが代行してくれるサービスだ。
さらに、書類を郵送してからも、会計処理の状況を専用のアプリで確認できるようにするなど、利便性を高めている。
サービスの対象者は個人事業主だが、エフアンドエムは中でも生命保険の営業職員を会員として多く持つ。
会計処理は毎年行う必要のある業務であるため、一度エフアンドエムに代行を依頼すると、翌年も同様に発注することが多く、会員数は年々増加傾向にある。
人事労務クラウドの「オフィスステーション」
エフアンドエムは、あらゆる人事・労務手続きに対応するクラウドソフト「オフィスステーション」も提供する。
その機能は膨大で、以下のように企業が行う人事・労務手続きを網羅している。
- 入社手続き
- 年末調整手続き
- 給与明細配布
- 有休管理
- マイナンバー管理 など
利用人数に応じた従量課金制の料金プランだが、「年末調整のみ」や「有休管理のみ」など、必要機能に絞った契約ができるのも特徴。また、無料トライアルもあるので、使い心地を知ってから契約に進むこともできる。
2021年5月現在で導入企業数は15,000社以上で継続率99.3%をほこり、人事労務管理のクラウドソフトの中でその存在感は大きい。
バックオフィスコンサルティングの「F&M club」
F&M clubは中小企業のバックオフィスを支援する会員制のサービス。
企業は会員となることで、財務・労務管理・人材採用・法改正等に関するコンテンツをオンライン等で閲覧できるようになる。また、電話・メールでの相談を受け付けるサービスセンターも設けられており、バックオフィス業務に関しての疑問点を解決するための相談先として利用することができる。
強み:豊富な継続課金サービス群
エフアンドエムの強みとしては以下の点が挙げられる。
- 継続的な課金が期待できるサービスを豊富に提供している
- 多くの中小企業とのリレーション
豊富な継続課金サービス
エフアンドエムが提供するサービスの多くは継続的な契約を期待できる。
例えば個人事業主にとって会計処理は事業を行っている限りはずっと発生するものであるから、エフアンドエムへの記帳代行は基本的には毎年依頼し続けるだろう。
F&M clubも会員制のサービスであるし、オフィスステーションも継続率99%以上で、売上がストックで積み上がるモデルだ。
中小企業とのリレーション
エフアンドエムは中小企業の支援を長らく行っていただけあり、数多くの中小企業との取引がある。
例えば、F&M clubには2020年3月期時点で6,379社もの企業が会員になっている。また、金融機関とのリレーションも深く、地場の中小企業の経営支援を協業して行っている。
このような広く・深いリレーションを中小企業と構築できていることは、今後新サービスを提供する際のアップセル提案のしやすさにも繋がる。
業績:安定ビジネスにクラウドの成長が乗っかる
エフアンドエムの業績を見ると、2006年3月期〜2010年3月期の間は減収が続いてることがわかる。しかし、2010年3月期を底に以降は増収を続けている。
実は減収が続いている間も記帳代行とF&Mclubについては比較的業績は良好であった。両サービスは継続課金につながりやすいサービスであるため、両サービスの売上割合が高まった結果、2011年3月期以降は安定した業績に移行しているのだ。
さて、もうひとつ注目したいのがエフアンドエムのビジネスソリューション事業(クラウド)の売上割合だ。2017年3月度には全体の6.85%しか占めていなかったその売上が2020年3月度には12.63%と大きく伸びている。
この伸びは「オフィスステーション」の成長によるところが大きい。
市場:企業・個人事業主と、サービス提供範囲がとにかく広い
エフアンドエムは企業のみならず、個人事業主に対してもサービス提供をしており、サービス提供範囲が広いのが特徴だ。
個人事業主をターゲットとする会計サービスの「CalQ」は2020年3月期で会員数が68,000人ほどだが、エフアンドエムが得意としている生命保険営業職員の数だけでも18.9万人(2018年度月平均実働数 引用:株式会社保険研究所『インシュアランス統計号(令和元年版)』)とされており、まだ開拓の余地は残されている。
対象を生命保険営業職員に限定しなければ、その数は218万とさらに膨大になる(引用:総務省統計局)。
エフアンドエムの会計サービスに関する会員あたり単価は約48,000円/年であるため、生命保険営業職員に絞るとその市場規模は90億円程度、個人企業全体に範囲を広げると1000億円以上となる。
また、「F&M club」や「オフィスステーション」がターゲットとする中小企業については、その数は日本に358万(引用:中小企業庁)。オフィスステーションの導入企業数は15,000社をすでに超えているが、市場規模から考えるとまだまだ広げる余地が十分にあることがわかるだろう。
特に「オフィスステーション」が属するHRTechクラウドの市場は2019年度に342.2億円だったのが、2020年度には426億円と大きく拡大しており(引用:ミック経済研究所、「HRTechクラウド市場の実態と展望 2020年度版」)、今後の成長が期待される分野だ。
株価:短期間で30倍の株価上昇!!しかし、大暴落も
2002年に100円を切っていた株価は2006年には2,900円を超えており、なんと約30倍の株価上昇を果たしている。2002年から2004年までは業績が低迷気味だったが、2005年・2006年に一気に利益を回復させたことが上昇の原因か。
だが、そこからは再度大暴落。2006年3月期にPERは150倍に達しており、割高になりすぎていたのだろう。
2001年5月からのパフォーマンスでは日経・TOPIXをアウトパフォーム。ただし、大暴落を経験しているため、30倍の株価上昇を果たしたわりには大してアウトパフォームしていない。
今後:オフィスステーションの成長に期待大
エフアンドエムの今後についてだが、まず、少なくとも業績が悪化する可能性は低いと考えている。
記帳代行とF&Mclubは共に継続課金が続くストック性の高いサービスであるため、たとえ今後大きく成長することはなくとも、エフアンドエムの業績を安定的に下支えしてくれるだろう。
記帳代行・F&Mclubが業績を下支えしている間に、次なる成長ドライバーであるオフィスステーションが期待どおりに伸びてくれれば、エフアンドエムの業績はむしろ躍進すると考えられる。
オフィスステーション自体もストック性の高いサービスであるため、企業への導入が一度決まれば、その後長期的にエフアンドエムの業績に貢献するはずだ。労務管理クラウドは競合も多く、決して勝ち抜くのが楽な市場ではないが、無料版や機能を絞った提供を可能とすることで、導入企業数の伸びは順調だ。
大きな成長ができるか否かはオフィスステーションの成長次第ではあるが、そうでなくともストック性の高い事業を中心に運営しているので、安定的な業績を保持できると考える。
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